睡眠時無呼吸症候群の治療法として注目されるマウスピース。その手軽さや効果に期待する声がある一方で、「本当に安全なのか」「どんな副作用があるのか」といったデメリットに関する不安も少なくありません。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療における具体的なデメリットを、顎関節や歯への影響、治療効果の限界、費用といった多角的な視点から徹底的に解説します。
さらに、これらのデメリットを最小限に抑えるための対策や、治療を検討する上で知っておくべき重要なポイントもご紹介。本記事を通じて、マウスピース治療への理解を深め、ご自身に最適な治療選択をするための一助となることを目指します。
睡眠時無呼吸症候群とマウスピース治療の基本
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。
医学的には、10秒以上の気流停止を無呼吸、気流が低下する状態を低呼吸と定義し、これらが1時間あたり5回以上発生する場合などにSASと診断されます(参考:日本呼吸器学会 1)。
放置すると生活習慣病のリスクが高まります
この状態を放置すると、身体は慢性的な酸素不足に陥ります。
その結果、心臓や血管に大きな負担がかかり、高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病のリスクを著しく高めることが知られています(参考:東京医科大学病院 2)。
これらの症状は日常生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、居眠り運転など重大な事故を引き起こす原因にもなり得るため、早期の発見と適切な治療が不可欠です。
マウスピース治療(スリープスプリント)の仕組みと効果
睡眠時無呼吸症候群の治療法の一つに、マウスピース(スリープスプリントまたは口腔内装置:OA)を用いた治療があります。
これは、就寝時に専用のマウスピースを装着することで、気道の閉塞を防ぐ方法です。
SASの多くは、睡眠中に舌の付け根や軟口蓋(上あごの奥の柔らかい部分)が重力によって下がり、気道を塞いでしまう「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」です。
マウスピースの仕組みと効果
マウスピースは、下顎を上顎よりも数ミリ前方に引き出した状態で固定するように設計されています。
下顎を前方に保持することで、舌の付け根も前方に引き上げられ、気道が広がります。
これにより、睡眠中の空気の通り道が確保され、いびきや無呼吸の発生を軽減する効果が期待できます(参考:日本呼吸器学会 1)。
装置自体がコンパクトで持ち運びが容易なため、出張や旅行が多い方にも適した治療法と言えます。
マウスピース治療の適応範囲
マウスピース治療は、すべての睡眠時無呼吸症候群の患者さんに適しているわけではありません。
一般的に、マウスピース治療が推奨されるのは以下のようなケースです。
専門医との連携が重要です
自身の症状がマウスピース治療の適応となるかどうかは、睡眠検査(ポリソムノグラフィーなど)の結果に基づき、専門の医師(呼吸器内科、耳鼻咽喉科など)と歯科医師が連携して判断することが重要です。
【知っておくべき】睡眠時無呼吸症候群マウスピース治療の具体的なデメリット
マウスピース治療は手軽で有効な方法ですが、決して万能ではなく、使用に伴ういくつかのデメリットやリスクが存在します。
治療を始める前に、これらの点を十分に理解しておくことが重要です。
身体的な影響
マウスピースの装着は、口腔内や顎の関節に物理的な変化をもたらすため、様々な身体的影響を引き起こす可能性があります。
顎関節への負担と痛み(顎関節症のリスク)
マウスピース治療において注意すべきデメリットの一つが、顎関節への負担です。
睡眠中、数時間から一晩中、下顎を不自然に前方に突き出した状態で固定するため、顎の関節や周囲の筋肉(咀嚼筋など)に持続的な緊張を強いることになります。
顎関節症や痛みのリスクに注意
この負担により、起床時に顎の違和感や筋肉の痛みを誘発するリスクがあります(参考:日本呼吸器学会 1)。
特に、もともと顎関節に問題がある方や、歯ぎしり・食いしばりの癖がある方は、症状が出やすいため注意が必要です。
歯や噛み合わせへの影響
マウスピースは歯を支えとして下顎を前方に保持するため、長期間使用していると歯に持続的な力が加わります。
この力によって、徐々に歯が移動したり、傾斜したりすることがあります。
噛み合わせの変化に注意
その結果、長期的には上下の歯の噛み合わせ(咬合)が変化してしまうリスクがあり、これらの変化は不可逆的となる可能性があります(参考:日本呼吸器学会 1)。
噛み合わせの変化は、食事のしにくさだけでなく、顎関節へのさらなる負担の原因となることもあります。
口腔内の不快感と初期症状
治療開始の初期段階では、口の中に異物を入れることによる不快感が現れることが一般的です。
マウスピースの装着により、唾液が過剰に分泌されたり、逆に減少して口の中が乾燥したりすることがあります。
また、歯や歯肉の疼痛や違和感を引き起こすこともあります(参考:日本呼吸器学会 1)。
初期症状は徐々に慣れることが多い
これらの初期症状の多くは、数週間から数ヶ月使用を続けることで徐々に慣れていくことが多いですが、個人差があります。
その他の身体的デメリット
顎関節や歯への影響に付随して、筋や顎関節の違和感に関連して、周囲の筋肉に負担がかかることがあります(参考:日本呼吸器学会 1)。
治療効果に関する限界
マウスピースは気道を広げる効果がありますが、その効果には限界があり、すべての人に十分な改善が見込めるわけではありません。
重症の睡眠時無呼吸症候群には効果が不十分な場合がある
睡眠時無呼吸症候群の重症度は、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を示すAHI(無呼吸低呼吸指数)で評価されます。
一般的に、AHIが30以上の重症例では、気道の閉塞が強固であるため、下顎を前方に引き出すだけでは十分な気道の確保が難しくなります(参考:日本呼吸器学会 3)。
そのため、重症の患者さんがマウスピース単独で治療を行った場合、いびきは軽減しても、無呼吸の回数を正常レベルまで減らすことができず、治療効果が不十分となるケースが多く見られます。
重症例の推奨治療
重症例では、より確実な気道確保が可能なCPAP治療が推奨されます(参考:日本呼吸器学会 1)。
効果に個人差が大きい
マウスピースの治療効果は、患者さんの骨格、肥満の程度、気道閉塞の原因部位などによって大きく異なります。
極度の肥満により首周りの脂肪が厚い場合や、扁桃肥大など気道そのものに物理的な狭窄がある場合は、下顎を前方に移動させても気道が十分に広がらないことがあります(参考:日本呼吸器学会 3)。
長期的な効果の持続性
また、体重の増加は気道を狭くする大きな要因となるため、治療開始後に体重が増加した場合、マウスピースの効果が低下する可能性が高くなります。
効果を維持するためのポイント
効果を維持するためには、定期的な検査と必要に応じたマウスピースの調整、そして体重管理などの生活習慣の改善が不可欠です。
費用と保険適用の条件
マウスピース治療にかかる費用は、保険適用の有無によって大きく異なります。
睡眠時無呼吸症候群の診断基準を満たし、医師(医科)からの紹介状(診療情報提供書)を持参して歯科医院を受診した場合、健康保険が適用されます。
保険適用の場合、マウスピースの作製費用は自己負担額(3割負担の場合)で約1万円程度が目安となります(事前の検査代等は別途かかります)(参考:国立病院機構 京都医療センター 4)。
一方、いびき防止のみを目的とする場合や無呼吸低呼吸指数が基準に満たない場合、医師の紹介状がない場合は保険適用外(自由診療)となり、全額自己負担となります(参考:国立病院機構 京都医療センター 4)。
市販品のリスクに注意
市販のいびき防止用マウスピースは、専門医や歯科医師による個別の診断・調整が行われないため、顎関節や歯並びへの悪影響などのリスクが生じる可能性がある点に注意が必要です。
デメリットを最小限に抑えるための対策と注意点
これまで述べてきたように、マウスピース治療には様々なデメリットが存在します。
しかし、適切な対策を講じることで、これらのリスクを最小限に抑え、安全に治療を進めることが可能です。
適切な医療機関選びの重要性
まずは医科を受診して正確な診断を受け、マウスピース治療が適応であると判断された上で、睡眠時無呼吸症候群の治療に精通した歯科医院を紹介してもらうのが最も確実な流れです(参考:山口県医師会 5)。
マウスピースの種類と選び方
医療機関で作成するマウスピースには、大きく分けて「上下顎一体型」と「上下顎分離型」の2種類があります。
長期的な口腔ケアとメンテナンス
マウスピースを清潔に保つことは、口腔内のトラブルを防ぐために不可欠です。
毎日のケアと定期検診が重要
さらに、マウスピースを使用している間は、通常よりも虫歯や歯周病のリスクが高まることを意識し、毎日の丁寧な歯磨きはもちろんのこと、歯科医院での定期的な検診とプロフェッショナルケアを受けることが強く推奨されます。
マウスピース治療が向いている人・向いていない人
マウスピース治療が向いていない人の特徴と注意点
以下のような特徴を持つ方は、マウスピース治療が向いていない、あるいは適用できない場合があります。
他の治療法との比較検討:CPAP・手術など
睡眠時無呼吸症候群の治療法はマウスピースだけではありません。
それぞれの治療法の特徴を理解し、比較検討することが重要です。
CPAP療法との比較
CPAP(持続陽圧呼吸療法)は、鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道に陽圧をかけることで閉塞を防ぐ治療法です。
中等度から重症のSASに対する標準的かつ最も確実な治療法とされています(参考:日本呼吸器学会 1)。
CPAPのメリットは、重症例であっても高い確率で無呼吸を解消できる点です。
一方、デメリットとしては、装置が大掛かりで持ち運びが不便なこと、マスク装着による皮膚や目の違和感、鼻咽頭の乾燥症状などから治療を継続できない患者さんが一定数いることなどが挙げられます(参考:日本呼吸器学会 1)。
その他の治療法(手術、生活習慣改善など)
小児のSASや、大人でも扁桃肥大やアデノイド肥大など、気道を狭くしている明らかな解剖学的原因がある場合は、手術が検討されることがあります(参考:兵庫医科大学病院 7)。
また、すべての治療法の基盤となるのが生活習慣の改善です。
治療と並行した生活習慣の改善
これらの生活習慣の改善は、マウスピース治療やCPAP治療と並行して行うことで、より高い治療効果を得ることができます。



